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Pre-release for Yokohama Forum
ICANN横浜フォーラムに向けての談話
CPSR日本支部設立準備委員会代表 山根信二[Internetのガバナンス]
CPSRの立場を明らかにする前に、まずInternet黎明期の運営がボランティア の奉仕によって支えられてきたことから説明しましょう。それを体現していた のがJon Postelという人です。RFC文書(Internet開発のための基本的なオンラ イン文献)の中にはPostel氏への弔辞も入っており、彼の精神をよくあらわし ています。(参考資料: RFC2441日本語訳 URL: http://www-vacia.media.is.tohoku.ac.jp/~s-yamane/articles/hacker/rfc2441-jp-yamane.html)
Postel氏が体現していたInternetの運営や問題調整をどうやって国際組織とし
てたちあげるか、というのがICANNの課題だと言えるでしょう。
(なお、ここでは話を単純化しています。
ICANNをくわしく調べてもらえばわかりますが、
Postelがやってきた仕事はICANNが受け持つ仕事の一部です。)
ICANN設立以前から、この問題はインターネット・ガバナンスというキーワー ドで呼ばれてきました。(ガバナンスというのは翻訳が難しい言葉ですが、 「管理」や「規制」ではなく「統治」と訳されるようです。)
アメリカではこの問題をめぐって、まず政府報告書が出て、それに対する専門 家集団の批判があり、さらにそれを採り入れた新たな報告書がでる、といった 応酬も行なわれてきました。そこで大きな役割を果たした専門家集団として、 ACM政策委員会やCPSRがあげられます。 ここではCPSRの活動について説明します。
[CPSRの活動]
インターネット・ガバナンスにおいては、一政府や私企業の介入を批判する だけでは不十分で、「Internet参加者がどのようなガバナンスを行なっていく か」という原則を提示しなければなりません。そこでCPSRがまず行なったこと は、Internetの原則についてRFC文書を提案することでした。
それが1997年の One Planet, One Net キャンペーンです。
(参考文献: RFC草稿の日本語訳
URL: http://www-vacia.media.is.tohoku.ac.jp/~s-yamane/articles/onenet/onenet-ja.html)
(なお、RFC作成の手続きについては6月18日発売のUNiX Magazine「RFCダイジェスト」にも紹介されていますので参考にしてください。)
これはインターネット技術の専門家らしい提言の仕方だと思います。 (実際、このドラフトを作成したCPSR幹部はこれまでにもRFCを幾つか書いています。) しかし、これは早すぎた実験でした。Internetを支える人々がオープンに討議 する場所としてRFCのプロセスを用いるのは野心的な試みでしたが、これは IETFをはじめとする当時のInternet専門家の手にあまる問題でしたし、英語で オンラインディスカッションするというのは非英語圏の人にとってハードルが 高いものでした(私もこの時は国際的な代表制をとるべきではないかと思いま した)。結局このドラフトは議論を尽くすことができず、RFCとして発行される にいたりませんでした。
(しかし、RFCのようなオープンな流儀でInternetの社会的問題にとりくむ、とい う One Planet, One Net の構想自体はこれからも追求すべきだと考えていま す。ようやくIETFの兄弟分としてISTF(Internet Societical Task Force)がつ くられ、これから動きだすところなので、そちらに期待しています。)
CPSRが考えていたのはRFC作成だけではありません。MITで開かれた1998年大
会でもOne Planet, One Net が大会のテーマにして、IETF議長のFred Baker、
Vint Cerfや法学者 Larry Lessig らが出席しました。(Jon Postel は当時入
院中のため欠席。)
(参考情報: CPSR 1998 Annual Meetingのページ
URL: http://www.cpsr.org/conferences/annmtg98/)
私もこの大会に出ていたんですが、この時点ではいまひとつ問題の重要性が分 かっていませんでした。Internetはこうあるべきだ、という理念をめぐる問題 としか捉えられなくて、現実の係争は想像できませんでした。これが官民いり みだれての国際的な権益争いになりかねないと思いはじめたのは、ICANN構想 がまとまって地球規模の選挙が現実味を帯びてきてからです。
[ICANN選挙に向けて]
ICANN選挙には官庁や経団連から非政府系組織、非営利系組織まで、それぞれ の勢力が注目しています。それぞれの団体は、登録商標問題からインターネッ トの許認可権限、あるいはインターネットの選挙など多様な関心を持っていま す。 それらのそれぞれの立場についてはここではコメントしません。ここではただ 「コンピュータ専門家はどうあるべきか」という立場を簡単に述べたいと思います。
日本のインターネット運営に携わる人たちの間でインターネットガバナンス
が語られだしたのはCPSR並に早かったと思います。しかし、インターネットが
どうあるべきかという原則についてはあまり語られず、日本から候補者を出す
ということばかりが語られているような印象をもっています。
たとえば日本の代表的学会である情報処理学会は、以下のように会員に選挙
人登録を勧めています(URL: http://www.ipsj.or.jp/other/icann.html. なお後にこの文書は
あたりさわりのない内容に書き換えられました。)。
参加人を募るのは大切なことです。しかしここで問題なのは、日本からの役員
がいなくなるかもしれないと述べて、ICANNに日本から理事を送りこむことを
訴えていることです。これはおかしい。他の団体はともかく、情報処理学会の
目的として国際協力は明記されていても国益についての記述はありません。
外国人の会員だっていますし、
専門家ならば、もっとも見識ある(公約を掲げる)候補者が理事になることを考え
るべきです。それなのに(候補者が現われる前から)日本出身理事を出さなければなら
ないと訴えるのは本末転倒です。
情報処理学会は先ほどあげたACMの姉妹団体ですが、国の利益についてまったく 触れずNon-Commercial Domain Name Holders' Constituencyを支援している ACMの態度(URL: http://www.acm.org/serving/IG.html) にくらべるとあまりに自国中心的であると言わざるをえません。 (もちろんICANNをアメリカの機関にしない努力は必要ですが、 それと日本人から理事を出すことは必ずしも同義ではありません。)
このような日本の状況をふまえて、さしあたり以下のことが必要だと思われます。
インターネットはどうあるべきかという原則を選挙の候補者のみならずそれに 関わる我々すべてが考える必要があります。そしてその原則は、国家や民族や 企業団体の利益を越えたInternet全体への貢献から考えるべきです。 これは専門家に限った問題ではないとおもいます。
CPSRは、ICANNの横浜会合に合わせて、非商業系のドメイン名保持者(上記ACMの活動とも関連があります)や市民セクターの人たちとフォーラムを開く予定です。 そこではOne Planet, One Net の理念が再び問われることになるでしょう。 この横浜フォーラムで、これ までに述べたインターネット・ガバナンスの理念についてより具体的に議論が 行なわれることを期待しています。
YAMANE Shinji <s-yamane@soft.iwate-pu.ac.jp> Last modified: Sat Dec 13 11:43:49 JST 2003